『学び合い』を始める時・・・切実なプロローグ

 

プロローグ

1116日 〇〇がおなかが痛いと言って保健室に行った。本当にそうだろうか?

 

124日 授業中に〇〇が寝ていた。塾が忙しいのか〇〇は内職していた。

 

120日 給食のおかずの件で喧嘩が始まった。注意しようと廊下に出たら別の喧嘩が始まった。

 

22日 朝起きれない。コンビニで20分もだらだらしてしまい学校に着いたのは7時だった。

 

215日 いつものコンビニでだらだらしていたら障がいをもたれた方が笑顔いっぱいでバス停で待っていた。こんな自分が情けない。

 

221日 足が震えて,教室までの階段を上がれそうになかったので保健室で2時間休んだ。教務の先生にご迷惑をおかけして・・・

 

 

 職員室の窓の外はもう真っ暗になっていました。運動場の向こうに見える団地の窓の光が見えるだけです。職員室には、昼間は聞こえないパソコンのサーバーのモーターの音だけが聞こえていました。僕は,明日の準備をしながら今日学級で起きたトラブルのことで保護者に何度か電話を入れました。でも,なかなか電話は,つながりませんでした。明日の授業で使うプリントを作り,たまっていたテストの丸付けを済ませ,たまっていたプリントに目を通して,時計を見ると930分を過ぎていました。最後にもう一度と思い電話をかけたんです。 

 

 「あっ、いえトラブルの原因は・・・」「はい・・・」「いえ、いつもちゃんと話してですね・・・」「はい、すみませんでした。・・」「はい、いえ、あのーそれはですね。」「はい、いえ、いいえ、そんな気持ちは、・・・」

「元気に明日も・・」ツーツーツー 

 

 もう,あの子は2日学校に来ていない・・・・

 夕方に家庭訪問に行ったけどきっと居留守だったと思う。

 

時計を見るともう、10時05分でした。 

明日,教務主任の先生に報告すると,家庭訪問をしたのかと聞かれる。

 

明日は,そして午後から出張でそんな出張で出会う同期の人たちはみんな自信に満ちて見えた。

みんな立派に教師として持論を話し,子どもたちとの楽しい出来事を話す。僕は,そんな会話に入れず少しずつ同期の人を見ると隠れるようにしていました。

 

僕は,社会の教科書をぼーと見ながら明日のめあてについて考えていました。  

 

その時突然、「ガタン」と椅子が倒れる音が事務室から聞こえてきました。一瞬「でた。」とおびえながら事務室の方に目をやりました。 

 

「あーーー、よう寝たばい。」 

 

もう数年で退職の西山先生があくびをしながら出てこられました。 

 

「大谷ちゃん,遅くまでよくがんばるね。」 

 

「あ、いや、あの、保護者対応があってですね。」 

 

「そうね、そりゃたいへんかったね。あれあれ、うまくいかん時はほっとけ。あがいてもなーんも変わらんもんね。ほっとけほっとけホットケーキ。ホットケーキにマーガリンつけてまあ、おあがりん。がははははは。んじゃ、先帰るね。」 

 

「は、はい、失礼します。」 

 

これが、あこがれの先生という仕事についた2年目の3月のできごとです。なんとか2年目を終え、それとなく僕を気遣ってくれる同学年の先生方や西山先生のおかげで何とか2年目を終えることができました。 

 

  

 

41日は、私たちにとっての一年の始まりなのです。 

 

  

 

「おはようございます。」 

 

「おはようございます。」 

 

数名の先生が職員室に入ってきました。 

 

「西山先生おはようございます。」 

 

「先生と隣の学年になりましたね。うれしいです。」 

 

「大谷ちゃんよろしくね。んじゃ、今夜飲みに行く?」 

 

「あー、いやー、」 

 

「大谷ちゃんは、酒飲めんもんね。残念かね。俺とおんなじで飲めそうな顔しとるとばってんね。」 

 

あと、1週間で今年も始まります。 

ここ数年初任者は各学校に1,2名ずつ入っていておばちゃん先生かおっさん先生か俺たちみたいな5年以下の教師で職員室は構成されています。 

 

初任者の先生に,同学年を組む先生が声をかけていました。 

 

「先生は、4年生だったよね。初任者研修とかいっぱいあるけどがんばってね。」 

 

「あ、はい。」 

 

  

 

僕も2年前にこんな感じでこの学校に来たのを思い出していました。 

 

一年目は,授業の一時間の授業のやり方を書いた指導案を毎週書かされ、子どもと遊ぶ暇なんかありませんでした。きっと僕がいけないんだろうけど,指導していただく先生によって言われることが違ったりもするんです。結局,パソコンに向かって文章を作ってばかりの一年だったように思います。 

 

2年目は5年生を持ちました。高学年の子どもたちは僕が思っているようにはいきませんでした。いつの間にか子どもたちは,少しずつ僕のことをなめてかかるようになりました。 

 

 ある昼休みの教室で,こんなこともありました。 

 

「大坪腕相撲やろうぜ」勇次は、ヘラヘラと笑いながらクラスで一番腕相撲の弱い大坪くんに言っていた。 

 

「うん」うつむき気味で大坪くんは応えます 。(どうせ、クラスで腕相撲が一番弱い僕を相手にして,ストレス解消しようとしてるんだ。こんなクラスの友達なんかいらない。でも先生は、いつもみんなとなかよくって言いうんだ・・・) 

 

大坪いくぞ、」 

 

勇次の目は三角になり、一気に机に叩きつけました。 

 

「うっ」 

 

「へへへ、弱いね大坪ちゃん、強くならないともてませんよ」そう言ってケラケラと笑った。勇次の仲間の浩太も一緒になって笑っていた。 

 

「もう一回やろうぜ」 

「いや、いいよ、どうせ負けるし」 

「やろうぜ、練習すれば強くなるよねねね。」 

「めがねかけてるから弱いんじゃねーの、眼鏡かせ」 

 

勇次は、無理やり大坪のめがねをとって自分でかけました。 

「天才君でーす。これで腕相撲よわよわになっちゃいました。へへへ、やろうぜ大坪」 

「いやだよ」 

「やれよ」 

そういって勇次は大坪くんの肩をつついたのです。 

 

「やっ やだ」 

そういって大坪くんが払いのけようとしてその手が勇次のほほに当たりました。 

「なんかおまえ!」 

勇次は、大坪くんに殴りかかり喧嘩になってしまいました。 

 

周りの男子は止めようともせず面白がって見ています。 

「やれーー」 

 

そんな声まで聞こえてきました。 

「おい、勇次!」どうしようもなくて、そうしか言えなかった。 

「先に殴ったのこいつやし」 

「なんなん、わけわからん」 

 

勇次はまくしたてるように言い訳を言いました。 

「勇次,なんでなぐったりするの?」 

 

勇次はへらへらと笑って何も答えませんでした。 

「何で殴ったといってるだろ!」 

 

こんな,10歳の子どもにバカにされている自分が情けなくて,大声を出してしまいました。 

勇次は口先だけで答えました。 

「え?すみませんでした。」 

 

相変わらずへらへらと笑って反省した様子は全く感じません。 

僕は、思わず手を上げましたが、その時、勇次は頭を引っ込めて僕をにらみつけてきました。 

 

僕は、指導することを半分あきらめ,「もう,いい。もう人を殴ったりしちゃいかんぞ。」そういい、勇次に「もう行っていい。」と言いました。 

 

勇次が行った後,教室の机に僕は、うなだれ落ちました。 

 

 

去年の学級は、僕の教師生活に対する夢を打ち砕きました。 

もっと、子どもたちと感動しあったり、本当のことを求めて話し合ったり、そんな教師生活を僕は夢見ていたはずなのに。 

 

 41日は担任の発表がある日でもあります。決してうまく行っていたといえない去年の学級,そして採用3年目の情けない自分には「きっと持ち上がりの6年生はないだろう。」と思っていました。しかし,校長先生から発表があり6年2組になったのです。 

 

 「また、あの子たちとの生活が始まる。」 

 

 僕は、新しい学期が始まることを考えると不安でしょうがありませんでした。そんな、不安を消そうと街に出かけぶらぶらと時間をつぶす最後の春休みの日でした。街の桜は、もう散りかけ、真新しいスーツのフレッシャーズがまぶしく,僕んかより何倍立派に見えました。 

 

何件か洋服を見て、何件か楽器屋に行って、だけど結局本屋に僕は行きました。 

そして、結局何かこの不安を取り除いてくれる本を探していたのです。 

 

  結局,教育書の棚の前に立ち,教育書の棚を眺めていました。どの教育書も,どの本も最新の教育について書いてあり自信に満ちた文章が並んでいました。だけど,僕の悩みに答えてくれる本は,一冊も見つけられませんでした。 

そんな,棚の一角に教育書には,似つかわしくない真っ赤の薄い本を見つけ,何気なく手に取りました。 

 

  

 

クラスが元気になる! 

『学び合い』スタートブック 西川純 

 

 

ぱらぱらとページをめくりあるページで僕は手を止めました。 

 

先生の仕事は 

もっと楽しく、もっと面白く、もっと誇り高く、そして家族を大事にして、できるものなのです。 

by 西川 純 

 

  

 

僕は,この赤い本を一冊だけ買い,家に帰りました。 

 

クラス変えがあって僕は、6年生に持ち上がりました。 

本のことは結局半信半疑で4月の初めの週は今までどおりに授業をしていました。 

 

4人の子どもが手を上げ,その子を指名し発表させ授業は進んでいきました。 

「どうやれば,円の面積を求められるかな?」 

「はい,三角形に分けるといいと思います。」 

「なるほどね,いい考えですね。」 

 

そう、発表した子をほめながら教室を見渡しました。 

 

数名のやる気のない子 

浩太は、ノートに何も書かないで窓の外を見る子 

 

僕が黒板に字を書いている時に、消しゴムを友達に投げる子 

 

「じゃあ、この円の半径は三角形の何になっていますか?」 

 

そう,子どもたちに問いかけながら僕は,自分に問いかけました。 

 

「何のために,僕は教師になったの。何のために算数を教えてるの?何のためにこの子たちは学ぶの?何のために?」 

 

「このままでは,今年もまた去年のように・・・・・・」 

 

  

 

振り向いて、子どもたちを見てじっと見ました。 

それに気が付いた子が前を向き始めます。 

 

沈黙の教室に,春の日差しが差し込みます。 

 

  この一週間悩みに悩んだが僕は決意し,今決断して話しはじめました。 

 

「君たちは、なんのために学校に来ている?」 

 

算数の時間に突然まったく違う話を始める僕をみんなが見つめました。 

 

突然の質問と、私の本気さにだれも何も言えませんでした。 

 

  

 

「先生は,学習だって,なんだって自分のことだけ考えるんじゃなくて,みんなのことも考えられるようになってほしいと思っています。そんな大人が増えればきっといい世の中になると思っています。先生は,小学校の時にサッカーをやっていました。自分がうまくなりたいと思って入ったクラブだったけど,みんなで目標に向かってみんながうまくなることで,先生は、仲間の大切さを学んだように思います。いろんなやつがいました。練習をサボるやつ。めちゃくちゃへたくそなやつ。でも監督は誰一人見捨てるな。といい続けてくれました。先生は多くのことをそんなクラブから学びました。だから、今日から、いや今から、仲間と一緒に自分も大事,仲間も大事と思える学習をしたい。いろんな人と関わりながらいろんな人と関われるようになれる学習がしたい。そんなクラスにみんながなるような学習がしたいんです。だから授業中も助け合ってほしい。」 

  

 

黒板に書いてあった「めあて 円の面積の求め方を考えよう。」を一気に消しました。 

 

そして、まだ消した後の残っている黒板に僕は力いっぱい書きました。途中でチョークが折れ、それでも書きました。そして、みんなの方に向き直り言いました。 

 

「今日のめあては「円の面積の公式の意味をみんなが説明できるようになる。」です。ほんの数人の人の発表で多くの人がノートを写して終わりの学習じゃだめだと思っています。そんな学習を先生が今までみんなにさせていたから,みんな自分のことしか考えない人になってしまったのだと思っています。本当にすみませんでした。

先生は間違っていました。だから,先生は,今日,この今から変わります。一人も見捨てないクラスをみんなと作りたい。それが願いです。みんなで助け合って,みんなができたらきっといいクラスになれると本気で思っています。」 

  

 

昨年あれほど私の話をちゃかしていた勇次も,いつもしらけムードだった真理亜も真剣に聞いていました。 

  

 

『僕は、とてつもないものに挑もうとしているのかもしれない。』 

そう思って,泣きそうになってしまいました。 

 

でも、今飛び込まないと、きっとまたあの不安な生活が待っていると思い・・・ 

 

僕は、今からエベレストに上ろうとする登山家のように自信に満ち、 

 

僕は、今から世界チャンピオンに挑むボクサーのように勇気にあふれていまいした。 

 

きっとやれる。 

 

そう、不思議に思えたのです。 

 

  

 

「さあ、みんなはじめてください。」 

  

 

カツカツとなる鉛筆の音 

 

遊び始める子 

5分の時間がたちました 

 

「先生できました。」 

 

「え!もう終わったの?んん、じゃあこの名前プレートを黒板に張ってちょうだい。」 

 

黒板に張られた,甲斐というプレート 

甲斐君が仲のいい友達に教え始めました。 

 

これが、僕の『学び合い』一日目の話です。

上のアドレスで、小学校4年生算数のワークシートを公開しています。

他の学年もあります。

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その後

manabiaifukuoka☆gmail.comからメールします。

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